沖縄高専から公式コメント

昨日の書いた記事「磁力の引力と斥力で発電(?)する装置」を簡略・効率化してみたよで取り上げた沖縄高専:磁石の力で発電 エコエンジン研究へ(毎日新聞, 琉球新報の記事は削除されてしまったようです)という記事に対して、沖縄高専から公式にコメントが出ました。

平成23年11月26日付琉球新報掲載記事「磁石の力で発電 エコエンジン研究へ」に関する本校コメント

発表に至った経緯を要約すると

  • あの機械は発電を意図したものではない
  • 高専側は「発電」という言葉は使っていない
  • 高専が記事の確認をしないまま、記事が公開されてしまった

ということです。あの記事は記者の勝手な解釈によるもので本学は関係ない、とでもいいたいような書き方です。

まあ、沖縄高専が、勝手に記事にされた、と言いたくなるのもわかります。『平成23年11月25日(金)に開催された本校主催「沖縄高専フォーラム」内にて、本校教員がこの件に関して、琉球新報の記者に取材を受けた』とあって、記事が公開されたのは11月26日(土)の朝刊前年度の開催が午後から(今年の案内が見当たらないのはなんでだろう?)ってことを考えると、取材から記事公開まで、半日もなかったはず。フォーラムの直後で、金曜日で翌日はお休みって状況で、高専側が琉球新報に記事の確認を求めるのは無理でしょう。この点は、記事を推敲する時間を十分に取らず、取材対象の了解を得ないまま記事を掲載してしまった琉球新報に完全に非があると思います。

だた、あの発明はどう見てもエネルギーを生み出す永久機関を意図したものです。この発明についての特許である特開2011-239676の題名は『マグネット式エコエンジン』。「エンジン」という単語が入っている時点で動力源、つまり運動エネルギー源としての利用を想定しているのは明らかです。また、本文中には『動力を得る』という単語が何度も使われているのに加え、『本発明に係るピストンエンジンは、特に自動車や船舶、工場等の原動機、自家発電用の発電機、さらには原子力発電に代わる代替原動機として有効である。』などと書いてあります。「発電機」なんていう単語が出てます。明らかに「発電」という用途を想定しているわけです。

もちろん、この特許文章に沖縄高専が関わっているかどうかはわかりません。出願人に書かれているのは発案者の社長だけです。高専が関わっていたら、何かしら関係者の名前が入っているんじゃないですかね。でも、特許作成に高専が関わったかはともかく、少なくとも高専側はこの特許文章を読んでいると思うんですよね。とすると、これが動力源た発電機としての用途を想定していることを知っていたわけで、これは『摩擦抵抗を緩和する等の補助的な効果が見られればとの意図による技術相談』と言えるんですかね?

 

沖縄高専が特許文章作成に関わったか/関わっていないか、沖縄高専が特許文章の内容を知っていたか/知らなかったのか、ってところは僕の憶測です。実際のところは直接高専に聞いてみるしか無いでしょう。でも、これ以上追求したところで、言った言わないの水掛け論になりそうです。なんだか政治家のやり取りを見ているようで気持ち悪いですね。

と、言うことで、これ以上の憶測でものをいうのはやめておきましょう。沖縄高専があれを永久機関として捉えていたのかってのは関係ないんです。単に程度の問題で、あれが「摩擦抵抗を緩和するかも」って考察している時点で、高専バカにされても仕方ないと思います。

 

結局問題なのは

  • 報道機関が提供する情報の質が低下している
    • なんで「裏」を取ろうとしないんですかね?
    • 「教授」って名前が付けば、コメントもらうの誰でもいいと思ってるんですか?
    • その「教授」さんが断らないのも問題
  • 学生を教える立場である教員の科学リテラシーの低下
    • こんな物理学の初歩中の初歩もできないの?

これらの問題は前々から言われていることですが、どうしたら解決できるんですかね?正直僕の手には余る問題なので、後々ゆっくりと考えることにしましょう。

とりあえず、未だ学生を続ける僕としては、沖縄高専の学生さんがこんな不毛な卒業研究をしなくて済みそうなので満足です。

 

 

追記:

僕以外にもこの件について色々書いている方が
沖縄高専と琉球物産貿易連合の「マグネット式エコエンジン(永久機関)」の検証と,沖縄高専のコメントの矛盾について 
元となった琉球新報の記事や特許文章が引用されています。こちらも見てみるといいでしょう。

また、はてなブックマークなどでコメントをくださった方も多くいるようで。その中に「新報が記事にしてなかったらどうなっていたのだろうねと思うと…。」と言うのがありました。確かにこの記事がなければ、そのまま卒研になっていたかと思うと恐ろしいですね。そういう意味では、それを防ぐことができた本件は非常にラッキーなことだったんだと思います。沖縄高専には再発を恐れてクローズドにならないで欲しいですね。本当の意味での再発防止は、学会にどんどん出るとか、論文をバリバリ書くとか、いろんな取材を受けるとか、どんどん外に出ていくことです。そして、周りから「こんなの本当にできるの?」って叩かれることなんです。(本来は学生が学内で教員に叩かれるべきものであって、教員が学外の学生に叩かれるとか最悪の展開なわけですが)

 

さて、いろいろ書いていたらなんだかちょっと言い過ぎたかなって気もしてきたので、好意的な解釈もしてみましょうか。ひょっとすると、沖縄高専に持ちかけられたのは、「磁気による動力伝達はできるのか」という技術相談だったのかもしれません。磁気による動力伝達というアイデア自体はいい線行ってると思います。機械的な接触はどうしても摩擦が発生し、部品が摩耗します。磁気を使えば非接触で動力を伝えることができるため、摩耗せず、メンテナスが不要な機械を作ることができます。このアイデアはすでに実用化されており、株式会社プロスパインさんでは、歯車の歯を磁石に置き換えた「磁気歯車」や、軸と軸をつなぐ「磁気カップリング」を作っています。

本件の磁気による動力伝達機構は、よくよく見てみると、カムと同じ働きをしています。磁気の力を使って、非接触で回転運動を直線運動に変えることのできるいわば「磁気カム」ですね。先ほど紹介したプロスパインの製品ラインナップを見ても「磁気カム」は扱っていないようです。やった!これは、すごい発明かもしれない!

と、思ってググってみると、「磁気を用いたカム装置」とか「磁気浮上・吸着カム」とかいう特許が出てきました。……もうあるじゃん。「磁気浮上・吸着カム」の出願人は「ソニー株式会社」ですか。ほう…こんなことしてたんですね…。あと、おもちゃにも使われている例がありました。

どちらの特許も、審査請求がなかったため取り消しになっているようです(特許は出願されただけじゃ有効にならなくて、3年以内に審査してもらわないといけないらしいです)。なんで審査しなかったんでしょうね?審査されていない以上、上記特許は特許としては無効なわけですが、「磁気カム」というアイデアが過去にあったということは間違いないようです。ここから先は調べていませんが、誰かが研究していてもおかしくなさそう。件の助教授はもちろん調べて、研究されてなさそうだ、ってことを確認したんですよね?僕信じていんですよね?